現在、沖縄県の辺野古に普天間飛行場の代替施設が建設されています。
辺野古の埋め立てが進まれていく中で、埋め立て区域に生息するサンゴの移植について色々な情報が飛び交っています。
2019年1月には、NHKの番組『日曜討論』で安倍首相が辺野古基地の土砂投入について「サンゴは移植した」と発言をしたことで波紋が広がり、Twitter上では安倍首相の発言が「大嘘」「一部のサンゴだけ」という指摘されるような内容が多く見受けられました。
今回は何が事実を確認するために、サンゴの移植を行っている沖縄防衛局が公開している報告書を見ながら辺野古のサンゴについてまとめてみました。
辺野古の移植対象のサンゴの種類や数
移植対象のサンゴは合計で約7万4300群体存在し、移植対象のサンゴは3点に分類されています。
その分類されたサンゴについて
・どんなサンゴなのか
・合計で何体いるのか
・どの位置に生息しているか
などをまとめてみました。
①小型サンゴ類・・・74,304群体
移植するサンゴのうち、ほぼ大半を占めているのが小型サンゴ類で合計74,304群体確認されています。
小型サンゴとして分類される基本的な考え方は下記のようになっています。
小型サンゴ類(移植):総被度が 5%以上で0.2ha以上の規模を持つ分布域の中にある長径10cm以上のサンゴ類とする。
サンゴ類に関する環境保全措置 【サンゴ類の移植・移築計画(案)】
移植対象のサンゴは図の黄色の枠内に生息していて、主に右側(大浦湾側)に生息しているのがわかります。
大型サンゴ類・・・23群体
大型サンゴとして分類される基本的な考え方は下記のようになっています。
大型サンゴ類(移築):単独であっても長径が1mを超える群体を対象とする。
サンゴ類に関する環境保全措置 【サンゴ類の移植・移築計画(案)】
(※群体とは数百以上の個体が集まったサンゴの塊のようなものです)
深浅測量(ナローマルチ測量)の結果を用いられているので、少し図が分かりづらいですが、辺野古のキャンプ・シュワブの位置からこちらも多くが右側(大浦湾側)に生息しているのがわかります。
③レッドリストサンゴ(絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ)・・・9群体
2017年3月21日に環境省が公表した『海洋生物レッドリスト(2017)』にオキナワハマサンゴが掲載されたことから、オキナワハマサンゴ9群体も移植対象になりました。
辺野古側に1群体
辺野古側の埋立区域の外側に準絶滅危惧のヒメサンゴが1群体発見されましたが、沖縄県との協議(「平成30年度 普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会(第14回)議 事 録)」の結果、移植は行わず、護岸工事の際には汚濁防止枠を4重に設置する処置をとることになりました。
大浦湾側に8群体
大浦湾側の埋立区域内に生存したヒメサンゴ1群体が発見されましたが、2018年の台風7号・8号の影響により消失したことで移植対象からは外されています。
現在(2019年9月)の移植の進捗状況
※進捗状況は『普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会』から確認できます。
現在(2019年9月)までに移植は「③絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ9群体」のみ完了しています。
沖縄防衛局は2018年3月20日に1群体、4月5日に8群体のオキナワハマサンゴの採捕許可の申請をして、今はもうお亡くなりになられた翁長雄志前知事が2018年7月13日に許可を出しました。
そして2018年8月4日までに9群体の移植が完了しています。
残りの移植対象のサンゴは移植の許可を沖縄県に申請中
残りの移植対象となっているサンゴについては、現在約4万群体の移植の許可を沖縄県に申請していて、沖縄県から許可が得られ次第移植を行う予定です。
しかし、2019年1月17日の沖縄タイムスの記事によれば沖縄県はサンゴの移植の申請に不許可の通知をしていて、2018年にも不許可にした経緯があります。
沖縄県名護市辺野古の新基地建設で、県農林水産部は16日、沖縄防衛局が再申請していた埋め立て予定区域のサンゴを移植するための「特別採捕許可申請」3件を不許可と通知した。防衛局の違法な申し立てに基づいて、国土交通相が県の埋め立て承認撤回を執行停止(効力停止)としたことから、承認は撤回されたままとの認識を示し、サンゴ移植の「必要性が認められない」と理由を説明した。
今後、埋め立てを予定している大浦湾側の小型サンゴ類830群体、小型サンゴ類3万8760群体、大型サンゴ類22群体の計3件。防衛局は昨年4月に2件、6月に1件を申請したが、県は同8月に埋め立て承認を撤回したことから、同9月に不許可とした。
2019.1.17 沖縄タイムス:「辺野古サンゴ 約4万群体の移植を不許可 沖縄県、防衛局に通知」
また、2019年7月19日の会見で玉城デニー知事は、沖縄県が17日に国交省の裁決の取り消しを求めて提訴した判決が確定するまで、サンゴの許可・不許可の判断を先送りする考えを示しています。
県は17日、埋め立て承認の撤回処分を取り消した石井国土交通相の裁決は違法だとして、裁決の取り消しを求めて福岡高裁那覇支部に提訴した。玉城氏は記者会見で「この司法の最終判断が出るまでは(サンゴ移植に関する)処分を行わない」と述べた。移植が遅れれば、工事日程にも影響する可能性がある。
2019.7.19 読売新聞:防衛省申請のサンゴ移植「国との訴訟終了まで判断しない」
サンゴの移植を認めるとなると、必然的に埋め立てを認めることになってしまうので、辺野古の埋め立てに反対している玉城デニー沖縄県政は、サンゴの移植についてなかなか認めることはないとは思っています。
サンゴの移植先はどこ?
Twitterを見ているとサンゴの移植先が気になっていたツイートも見かけたので、こちらも調べてみました。
サンゴの移植先は、基本的に下記のようなことを踏まえて選定されています。
オキナワハマサンゴ9群体の移植先は公開されていない
すでに移植が完了している絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ9群体の移植先は、保護の観点から公開されていません。
一般のサンゴの移植先は「中干瀬」及び「辺野古崎前面海域」
一般のサンゴの移植先は比較的近場である「中干瀬」、「辺野古崎前面海域」の2つが候補地としてあげられています。
移植先は地形、水深、水質、波当たり、流れの状況などが考慮されて、それぞれのサンゴに合った移植先が選定されています。
安倍首相の「サンゴは移植した」発言に沖縄県知事の玉城デニー氏も言及
2018年1月6日に放送されたNHK『日曜討論』で安倍首相が発言した辺野古の土砂投入についての発言は下記の通りです。
安倍首相「土砂を投入していくに当たってですね、あそこのサンゴについては、移しております。また、絶滅危惧種が砂浜に存在していたんですが、これは砂をさらってですね、これもしっかりと別の浜に移していくという、環境への負担をなるべく抑える努力もしながら行っているということであります。」
引用:2019年1月6日放送 NHK「日曜討論」
この発言がTwitter上で波紋を呼び、玉城デニー知事もこの発言に対してTwitter上で言及していました。
このツイートは約1万件近くリツイートされ、多くの国民の目に止まったと思います。
安倍首相の発言はそんなに問題ではない
安倍総理の言う「あそこのサンゴ」というのは、おそらくですが現在護岸で囲われていて土砂の投入が進んでいる辺野古側の埋立区域のことを言っていたのではないかと思います。
現在護岸で囲われている区域は下記の区域が該当します。
・2018年12月から土砂を投入し始めた「区域②-1」
・2019年3月から土砂を投入する「区域②」
赤線で囲われている場所↓
実写版↓
移植対象のサンゴの生息地や進捗状況などは既に上で書いたと思いますが、
・2018年12月から土砂を投入し始めた「区域②-1」
↓
移植対象のサンゴはいない
・2019年3月から土砂を投入する「区域②」
↓
移植対象のオキナワハマサンゴ1群体がいたが、移植はすでに完了している
という具合になります。
沖縄タイムスの記事でもこれは報じられています。
一方、沖縄防衛局は(2)-1に隣接し護岸が完成している「区域(2)」と、大浦湾側で確認された希少サンゴの「オキナワハマサンゴ」9群体は移植している。
2019.1.10 沖縄タイムス:「「あそこのサンゴは移した」首相発言が波紋 辺野古の土砂投入、県は反発」
つまり、現在護岸で囲われている中の移植対象のサンゴの移植は完了しているので、安倍首相の発言はそんなに問題ではないことがわかります。
ただ、安倍首相の発言を「区域②-1」に限定すると不正確にはなる
安倍首相の発言では
「土砂を投入していくに当たってですね、あそこのサンゴについては、移しております。」
という言い方をしていたので、「あそこのサンゴ」を現在土砂を投入している「区域②-1」に限定すると、この区域には移植対象のサンゴはいなかったので「移植をした」という発言は少し不正確になってしまいます。
しかし、
・「区域②-1」と「区域②」は土砂を投入するための護岸がすでに完成されている
・「区域②-1」の後に続けて「区域②」に土砂を投入する予定となっている
ということを考えると、安倍首相の「あそこのサンゴ」が現在護岸で囲われている2つの区域を指していても、特に不自然ではないと思います。
なので、この発言について「嘘」とまで書かれるのは少し安倍首相に酷なような気もします。
玉城デニー知事はどういう意図でツイートしたのか
安倍首相の「あそこのサンゴ」が、辺野古側の護岸が設置された埋立区域のことを言っていたとすれば、特に問題がないことが分かりますが、玉城デニー知事のツイートをもう一度確認してみます。
安倍総理…。
それは誰からのレクチャーでしょうか。現実はそうなっておりません。だから私たちは問題を提起しているのです。— 玉城デニー (@tamakidenny) 2019年1月6日
沖縄防衛局の資料を読んだ後でこのツイートを見ると色々疑問を感じます。
玉城デニー知事は、護岸で囲われている埋め立て区域のサンゴの移植がすでに完了していることを知っておきながら「現実はそうなっておりません」「私たちは問題を提起しているのです」とツイートしていることになります。
また、玉城デニー知事は「どこに移したのか聞いてほしかった(呆」というツイートに対してコメントしていますが、玉城デニー知事は移植先についても知っているはずなのに、そこにも一切触れていません。
安倍首相の発言の動画付きのツイートでは「移植対象のサンゴを移植しないまま、その上から土砂を投入している」と誤解してしまうような内容だったと思うので、玉城デニー知事は、そこにフワっとした文言のツイートで便乗するのではなく、もう少し詳しく沖縄県知事として「何が」現実にそうなっていないのか、「どんな」問題を提起しているのかという内容を説明してほしかったなと思います。
9群体のうち4群体は良好な状態で1群体は死亡
すでに移植が完了しているオキナワハマサンゴ9群体の現在の状況ですが、週2回の経過観察が実施されていて、その様子は文書や画像付きで公開されています。
移植された9群体のうち・・・
4群体→移植前からの良好な状態を維持または大きく改善
2群体→大きな変化はなしまたはやや改善。
1群体→生存部の縮小
1群体→死亡。
1群体→消失。引き続き、 定期的な観測を続けていく考え。
オキナワハマサンゴの再生産の様子を世界で初めて確認し、学術的価値も高い発見
2019年3月の沖縄防衛局の報告では、移植されたオキナワハマサンゴの幼生の放出を確認し、オキナワハマサンゴの再生産の様子を世界で初めて確認したことから学術的価値も高いとされています。
2019年9月(最新)の報告では9群体中6群体から幼生の放出およびその兆候が確認されています。
過去の沖縄のサンゴの移植の例
沖縄海域では過去にもサンゴの移植を実施していて、国(沖縄総合事務局)による事例が6件、県による事例が1件があります。
今回の埋め立ての際に辺野古のサンゴについて言及するのはわからなくもないですが、沖縄県のサンゴは過去にも様々な都合で移植されてきたということは移設反対・容認派の人達の共通認識であるべきだと思います。
辺野古のサンゴの移植基準は那覇空港の滑走路増設事業の移植基準より高い
現在、辺野古と同じ沖縄県で建設中の那覇空港の滑走路増設事業ですが、こちらも海を埋め立て建設されるので、辺野古の埋め立てと比較されているのをたまに見ます。
那覇空港の滑走路増設事業のサンゴの移植はすでに行われていますが、「辺野古のサンゴ移植基準」は「那覇空港の滑走路増設事業のサンゴの移植基準」より高いです。
※サンゴの移植基準
◯辺野古
①被度5%以上で0.2ha以上の規模を持つ長径10cm以上のサンゴ類
②単独であっても長径が1mを超える群体
(③レッドリストに記載されたサンゴ)
沖縄防衛局:サンゴ類に関する環境保全措置 【サンゴ類の移植・移築計画(案)】
◯那覇(那覇空港の滑走路増設事業)
①被度が10%以上のエリアに生息するサンゴ類
②直径が1m以上の大型ハマサンゴ類
沖縄総合事務局 開発建設部:海域生物の移植(サンゴ類)について
※被度とは・・・海底面に占める生きたサンゴの割合
※群体とは・・・数百以上の個体が集まったサンゴの塊のようなもの
比べてみるとわかりますが、小型サンゴ類の移植対象について、辺野古が「被度5%」なのに対し那覇(那覇空港の滑走路増設)の方は「被度10%」となっています。
被度とは、海底面に占める生きたサンゴの割合のことで、つまりは那覇の基準では当てはまらなかったサンゴも辺野古では移植対象になっています。
この移植基準については国会でも答弁されていて、那覇(那覇空港の滑走路増設)の方では小型サンゴ約3万7000群体の移植を行ったのですが、辺野古と同じ規準だったとすれば17万群体の移植を行う必要があったようです。
◯安倍内閣総理大臣
2019年3月1日 第198回国会 財務金融委員会 第5号
このうちサンゴ類の移植については、沖縄防衛局において、部外の専門家から成る環境監視等委員会の指導助言を踏まえて保護基準を設定しておりまして、実際設定した基準は、那覇第二滑走路の工事に伴う埋立ての際よりも相当厳しいものであり、この内容は沖縄県にも報告をしていると聞いております。具体的には、那覇第二滑走路の工事に伴い、小型サンゴ約三万七千群体の移植を行いましたが、仮にこれに辺野古移設と同じ基準を当てはめれば小型サンゴ類十七万群体を移植する必要があった、つまり、三万七千ではなくて十七万群体を移植しなければならないという、非常に厳しい、那覇第二滑走路と比べて厳しい基準で辺野古のサンゴの移植は行っているということであります。
最後に
以上、辺野古の埋立区域のサンゴについてまとめてみました。
今回沖縄防衛局の資料を見たことでテレビや新聞の報道とは少し違うなという印象を受けましたし、安倍首相の発言の「区域②-1」の解釈に至っては、正直書き方がやらしい新聞が多かった気がします。
その新聞を元にTwitterなどで発言している人も多くいるので、まずは元となる資料を読むことが大事だなと思いました。
ただ、大半のサンゴの移植は終わってはいなく、移植自体も沖縄県が許可を出していない状況なので、これからどうなるか気になるところです。
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