2017年10月に辺野古移設反対を公約に掲げた玉城デニーさんが沖縄県知事に当選したことで、今、辺野古の基地問題についてメデイアや国民から注目が集まっていると思います。
翁長前沖縄県政に続き、玉城デニー現沖縄県政は「辺野古の基地は新基地」という主張であり、その理由は「普天間にはない基地機能が追加されるから」というものです。
そこで今回は「その主張は正しいのか」という点も含めて
- 普天間から辺野古に移設される基地機能はなにか
- 普天間にはない辺野古に新たに設置される基地機能とはなにか
ということについて調べてまとめてみました。
普天間飛行場の3つの機能
普天間飛行場は大きく分けて3つの機能を有しています。
その機能とは
①ヘリコプターやオスプレイなどの運用機能
②空中給油機の運用機能
③緊急時に多数の航空機を受け入れる基地機能
の3つの機能です。
普天間から辺野古に移るのは「①ヘリコプターやオスプレイなどの運用機能」のみ
普天間飛行場の持っている3つの機能のうち、辺野古に移るのは「①ヘリコプターやオスプレイなどの運用機能」のみです。
普天間飛行場は、沖縄における米海兵隊(在沖米海兵隊)の航空能力に関し、①オスプレイなどの運用機能、②空中給油機の運用機能、③緊急時に航空機を受け入れる基地機能という3つの機能を果たしている。このうち、①の「オスプレイなどの運用機能」のみをキャンプ・シュワブに移設することとしており、②の「空中給油機の運用機能」については、14(同26)年8月、KC-130空中給油機の15機全機の岩国飛行場(山口県岩国市)への移駐を完了した。
防衛省・自衛隊:平成30年版防衛白書 4 沖縄における在日米軍の駐留
「②空中給油機」はすでに移駐が完了
空中給油機は2014年8月26日に15機全機普天間飛行場から山口県の岩国飛行場への移駐が完了し、軍人、軍属及び家族約870名も転出することになりました。
1996年のSACO最終報告から18年越しの課題達成でした。
「③緊急時の航空機受け入れ機能」は本土へ移す予定
「②緊急時の航空機受け入れ機能」は福岡県の築城(ついき)基地、宮崎県の新田原(にゅうたばる)基地へ移転することが決定しています。
これは、2006年に日米両政府が合意した「在日米軍再編のためのロードマップ」ですでに決められていました。
普天間飛行場の能力を代替することに関連する、航空自衛隊新田原基地及び築城基地の緊急時の使用のための施設整備は、実地調査実施の後、普天間飛行場の返還の前に、必要に応じて、行われる。
外務省:再編実施のための日米のロードマップ(仮訳)
基地のある町の2人の町長も理解を示している
2018年10月、築城基地が所在する築上町の新川久三町長、新田原基地が所在する新富町の小嶋崇嗣町長はお2人とも積極的に賛成というわけではありませんが理解を示しています。
◯築城基地・新川久三町長
築城基地がある築上町の新川久三町長は、受け入れざるを得ないとの考えを示し、施設が整備されれば総務省からの基地交付金が増えるため「整備は町財政に役立つ」とメリットを強調した。ただ、築城基地では滑走路が約300メートル延長され、宿舎なども整備されるため、米軍の常駐化を懸念する声は根強い。新川町長は「あくまで緊急時の利用」と否定した。
西日本新聞:新田原・築城の「米軍基地化」懸念 沖縄負担軽減には理解も 米軍用弾薬庫計画
◯新田原基地・小嶋崇嗣町長
新富町の小嶋町長は理解を示しつつも防衛省に対し、新田原基地を米軍基地化しない事・住民への安心安全対策や騒音対策の充実・住民への丁寧な対応と説明などを求めていく考えです。
UMKテレビ宮崎:新田原基地 米軍施設整備受け入れ「普天間飛行場 辺野古移設との関係」
一方、新田原基地を抱える新富町の小嶋崇嗣町長は「米軍基地化しないことを強く求めた。丁寧な対応と周辺住民への十分な説明を行ってほしい」。元航空自衛官でもある同町の桜井盛生議長(76)は「有事の備えや沖縄の負担軽減のため、機能の一部受け入れは理解できる」とした上で「唐突感がある。もっと早く地元に説明できたのではないか」といら立ちを見せた。
西日本新聞:新田原・築城の「米軍基地化」懸念 沖縄負担軽減には理解も 米軍用弾薬庫計画
日米間で合意され施設整備を進めていく予定
緊急時の受け入れをするためには滑走路の延長、弾薬庫の設置などの機能移転が必要となる施設整備を行う必要がありますが、2018年10月24日には日米間で合意され、今後整備を進めていく予定となっています。
辺野古に設置される普天間にはない基地機能
辺野古の基地について「普天間飛行場にはない施設が設置されて基地機能が強化する」という意見がよく見られるので、その実態についても調べてみました。
「普天間にはない新たな基地機能」としてよく取り上げられるのが、下記の3つの施設だと思います。
・強襲揚陸艦が接岸できる護岸
全長272mの護岸で、183.5mの船舶の利用が予定
・弾薬搭載エリア
航空機に弾薬を搭載したり降ろしたりする場所
・2本のV字型の滑走路
長さ1800mの2本の滑走路(普天間では約2800mの滑走路が1本)
玉城デニー知事も「那覇→浦添」の移設を容認し、「普天間→辺野古」の移設を反対する理由として、辺野古に新たに設置される機能を挙げて、基地が強化される旨の発言をしていました。
◯玉城デニーさん
「辺野古の新基地建設については普天間にない弾薬搭載エリアであるとか、強襲揚陸艦が接岸できる護岸であるとか、明らかに機能強化であることは間違いありません。しかも一本の滑走路は二本に増え、オスプレイを将来100機そこに配備するということは元防衛大臣の著書の中でも明らかなんですね。つまり、もう強化されることがはっきりしている普天間の辺野古移設と、移設協議会の枠組みの中でこれから協議が進められていくものとは、根本的に基地に対する捉え方が違うということだと思います。」8:49~ 上記発言
では、その辺野古に設置される機能というのが
・どのような機能なのか
・基地の機能強化となるのか
という点について、政府から公開されている資料などを見ながら1つずつ見ていこうと思います。
「強襲揚陸艦が接岸可能な護岸ができるから基地強化になる」という言い方は正確ではない
辺野古の基地には約272mの護岸が設置される予定です。
この護岸について「強襲揚陸艦が接岸できる護岸」と指摘されていますが、これは正確ではありません。
政府側は国会の答弁で長さは不十分であると否定
2015年3月10日の国会の答弁で、日本共産党の赤嶺議員から「辺野古の護岸は米側の基準で強襲揚陸艦が接岸できる長さを満たしているので、強襲揚陸艦の運用を前提としているのではないか」という内容の質問がありました。
アメリカの海軍施設エンジニアリングサービスの技術書では、ワスプ級の強襲揚陸艦の接岸に必要な護岸の長さは「271.86m」と計測されているようであり、辺野古の護岸の長さとほぼ一致することになります。
◯赤嶺分科員
平成27年3月10日 第189回国会 予算委員会第三分科会 第1号
(前略)
アメリカの国防総省の外郭団体、海軍施設エンジニアリングサービスが同省の安全基準に基づいて作成している技術書によると、長崎県の米海軍佐世保基地を母港とするボノム・リシャールなど、いわゆるワスプ級の強襲揚陸艦の接岸に必要な護岸の長さは、二百七十一・八六メートルと計測されるとのことであります。防衛省が埋立申請書の中で示している二百七十一・八メートルと同じであります。
政府は、これまで、辺野古の新基地に建設する係船機能つき護岸について、強襲揚陸艦の運用を前提とするものでは全くない、このように説明をしてきましたが、事実はその反対で、まさに強襲揚陸艦の運用を前提に設計されたということではありませんか。
これに対して、政府側の原田防衛大臣政務官は「仮に長さ260mの強襲揚陸艦を運用する場合、長さが不十分」と否定しています。
◯原田大臣政務官
平成27年3月10日 第189回国会 予算委員会第三分科会 第1号
お答えを申し上げます。
御指摘の米国防総省の安全基準がいかなるものを示すのかは明らかではありませんが、仮に長さ二百六十メートルの強襲揚陸艦を運用する場合、現在計画中の護岸の総延長約二百七十メートル全てに係船機能があるとしても、長さは不十分であります。当該岸壁は、強襲揚陸艦の運用を前提とした設計とはなっておりません。
また、「その技術書は、係船機能の配置等を検討するためNFESC(米海軍施設エンジニアリング・サービスセンター)が開発した計算ソフトの解説書であり、具体的な艦船係留のための岸壁延長を示したものではない」という答弁もしていました。
◯原田大臣政務官
平成27年3月10日 第189回国会 予算委員会第三分科会 第1号
なお、仮に御指摘の根拠が米海軍施設エンジニアリングサービスセンターが米海軍の指示で作成した技術書であるとすれば、当該技術書は、艦船を桟橋や岸壁に固定するための係船ロープ、いわゆるもやいの配置等を検討するためNFESCが開発した計算ソフトの解説書であり、具体的な艦船係留のための岸壁延長を示したものではないと承知をいたしております。
また、3月17日の国会で政府側は「日本で行う米軍施設の整備は日本の基準も加味するので、軍の基準をそのまま引用するわけではない」という答弁を行い、「仮に、強襲揚陸艦を対象として、国内の港湾施設の基準を用いた場合には約320mの係船付き護岸が必要」という答弁も行いました。
◯国務大臣(中谷元君)
平成27年3月17日 第189回国会 予算委員会 第7号
我が国で行う米軍施設の整備に当たっては、米側の要望を基に日本の基準等も加味して設計するとしておりまして、米軍の基準をそのまま引用するものではございません。仮に、強襲揚陸艦を対象船舶としてこの係船機能付岸壁の長さを公有水面埋立承認申請と同じ国内の港湾施設に係る基準を用いて計算した場合に約三百二十メートルとなります。これは、係船機能のない部分も含めた護岸の総延長二百七十メートルすら上回ることですから、当該の係船機能付岸壁は強襲揚陸艦を対象船舶として設計していないというのは明らかでございます。
辺野古に建設する護岸は272mですが、このうち約240mが係船付きの護岸になるので、「強襲揚陸艦が辺野古の護岸に接岸するには長さが足りない」というのが政府側の答弁です。
つまり、政府側の主張としては
アメリカ側の基準に対しては答えられないが、日本側の基準では辺野古の護岸で強襲揚陸艦の運用できない
ということになります。
◯山本政府参考人
平成27年3月10日 第189回国会 予算委員会第三分科会 第1号
繰り返しになりますが、強襲揚陸艦等の対象艦艇が接岸するための岸壁の長さにつきましては、配備する艦艇の安全確保を踏まえ、米側から要望されている配置要件等に基づいて決定をしております。具体的には、その艦艇の長さですとか艦艇間のスペースというものでございます。
米軍が定めている基準につきましては、防衛省としてお答えする立場にないということを御理解いただきたいというふうに存じます。
ホワイト・ビーチ地区の軍港には強襲揚陸艦が接岸しているが・・・
沖縄県うるま市に所在するホワイト・ビーチ地区の約250mの護岸には強襲揚陸艦が接岸しています。
「辺野古の護岸」と「ホワイト・ビーチの護岸」を比較すると
◯辺野古の護岸・・・272m(係船付きの護岸は240m)
↓
強襲揚陸艦が接岸するには政府側は長さが足りないと主張
◯ホワイト・ビーチの護岸・・・約250m
↓
強襲揚陸艦が接岸できている
ということになるので、
政府側の答弁は矛盾していないか?
という疑問がわくと思います。
このことは国会で追及されましたが、政府側は「日本側で行う米軍施設の整備は日本の基準も加味することになり、米軍の基準をそのまま引用するものではない」という同じような内容の答弁でした。
また、産経新聞によれば、防衛省は「(辺野古の護岸は)滑走路に隣接しており、強襲揚陸艦の母港としては成り立たない」と主張しています。
接岸施設に関しても、防衛省幹部は「滑走路に隣接しており、強襲揚陸艦の母港としては成り立たない」と説明する。
2018.12.14 産経ニュース:辺野古移設「官製デマ」 政府に深まる玉城県政への不信
辺野古の護岸は故障した航空機を輸送できる運搬船が接岸できるために作られる
辺野古に建設される係船付き護岸は、強襲揚陸艦を接岸させる目的で整備されるわけではなく、滑走路の短縮(普天間飛行場の滑走路は2,800m→辺野古の滑走路は1800m)により、故障した航空機を搬出する輸送機が着陸できなくなるため、かわりに運搬船が接岸できるように護岸が整備されます。
このことは『普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書』にも記載されていて、安倍首相が国会でも答弁しています。
◯内閣総理大臣(安倍晋三)
平成27年2月17日 第189回国会 本会議 第7号
辺野古に整備する係船機能つき護岸につきましては、滑走路の短縮により、故障した航空機を搬出する輸送機が着陸できなくなるため、かわりに運搬船が接岸できるようにするためのものでございます。
そして、安倍首相は国会で「強襲揚陸艦の運用を前提としていない」ことは米軍との共通の認識であるとも発言しています。
◯内閣総理大臣(安倍晋三)
平成27年3月17日 第189回国会 予算委員会 第7号
強襲揚陸艦の運用を前提とするものでは全くないという点につきましては、これは米軍とも共通の認識であるということもはっきりと申し上げておきたいと思います。
辺野古の基地に「普天間にはない護岸」が設置されることは事実ではありますが、これらのことから「強襲揚陸艦が接岸可能な護岸ができるから基地強化になる」と断定するのは、正確さに欠けるのではないかと思います。
ちなみに・・・浦添に移設される那覇軍港は強襲揚陸艦の接岸が可能になる
辺野古にできる係船機能付きの護岸に関して、玉城デニー沖縄県政は「基地強化になるので反対」という主張ですが、玉城デニー知事が移設を容認した那覇軍港は、浦添に移設されることで、これまでは困難だった強襲揚陸艦の接岸が可能になります。
しかし、玉城デニー沖縄県政は那覇軍港に関しては「機能の移転」という主張で、強襲揚陸艦が接岸できることに対して特に指摘していなく、反対もしていません。
それなのに、辺野古だけ「基地強化になるので反対」とかたくなに主張するのは少し疑問です。
※詳しくはこちらの記事
※玉城デニー知事の疑問点をまとめた記事
弾薬搭載エリアが設置される理由は「辺野古基地」が「嘉手納飛行場」まで遠距離だから
辺野古に弾薬搭載エリアが設置される理由を2007年12月12日に開催された「第5回 普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会」で石破茂防衛大臣(当時)が発言していました。
(石破防衛大臣)
首相官邸:2007年12月12日 第5回 普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会
現在の普天間飛行場におきましては嘉手納飛行場を利用いたしまして、ヘリコプターの弾薬の搭載作業を行っておりますが、飛行場施設が嘉手納から遠距離にございます辺野古崎へ移設されることに伴い、この作業を嘉手納で行うとすれば、運用上の支障をきたすことにあいなります。従いまして、ヘリコプターに弾薬を搭載する場所をこの飛行場施設内に設けることとしたものでございます。この場合、騒音の抑制でありますとか、安全性の確保に資するというふうに考えておりまして、米軍の運用上もそうでございますが、地元にとりましても、メリットを受けていただけるのではないかと、このように考えております。
一応要約しておくと・・・
・普天間飛行場はヘリコプターの弾薬搭載作業をする際に嘉手納飛行場を利用している
・普天間から辺野古に移設すると、弾薬搭載作業をする際に辺野古から嘉手納まで移動する必要が出てきて運用上支障をきたすので、辺野古に弾薬搭載エリアを設置する
・弾薬搭載エリアを辺野古に設置することで、地元住民に対して「騒音の抑制」、「安全性の確保」のメリットもある
ちなみに、普天間飛行場と辺野古基地のそれぞれの位置から嘉手納飛行場までの距離感は下の図のようになっています。
この図を見ると、たしかに辺野古の基地は普天間飛行場に比べて嘉手納飛行場までの距離が遠ざかっているのがわかります。
2本のV字型滑走路は飛行経路を住宅地の上空から避けるため
辺野古に設置される2本のV字型の滑走路について「1本の滑走路が2本に増えて基地強化になる」という情報を見ますが、これは正確ではありません。
滑走路が2本に増えたことは事実ですが、これは航空機の飛行経路を住宅地の上空から避けるためであり、その経緯を書いていきます。
V字型の滑走路が決まるまでの経緯
辺野古のV字型の滑走路というのは、今から10年以上前に政府と名護市長たちとの間で合意されました。
その過去の経緯を『移設問題の動向(年表) | 名護市役所』『普天間飛行場代替施設に関する協議会 | 首相官邸』などの資料を参考にまとめてみました。
I字型の滑走路
今から15年以上前の話になりますが、最初に提案された滑走路の案「従来案(軍民共用)」は、2002年7月23日『第9回代替施設協議会』にて提案されました。
辺野古の住民の方々からは騒音対策などのために、滑走路を沖の方へ離してほしいという要望などがあり、政府は、辺野古の集落から約2.2km離れた、長さ2000mの1本の直線的な滑走路を最終的に提案しました。
※I字型の滑走路
これは8回にわたる協議会によって決められた案であり、会議録を見ると当時の名護市長(岸本建男)、東村長、宜野座村長、沖縄県知事(稲嶺惠一)は概ねこの案を評価していて、了承をしていたことがわかります。
しかし、環境保護団体などから反対運動が起こり、円滑に作業が進まなく、次の案が提案されることになりました。
◯額賀防衛庁長官
防衛省・自衛隊:第1回普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会
その後、平成16年8月には、宜野湾市においてヘリ事故が発生し、より早期の移設・返還の必要性が日米両国で強く認識されました。そのような中、同年9月からボーリング調査の海上作業を行いましたが、反対する人々に阻まれ、円滑に作業が進みませんでした。
そのため、日米間で、運用上の能力を維持しつつ、住民の生活環境や自然環境に対する影響などを考慮し、同飛行場の返還を加速できるような多くの選択肢を検討した結果として、いわゆる「2+2」の共同文書において、同飛行場の代替施設を「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型」に設置するとの案を御提示しましたところであります。
L字型の基地案(沿岸案)
その次に提案された基地案はL字型の基地「沿岸案」でした。
※L字型の基地案(沿岸案)
防衛省・自衛隊:説明用資料(辺野古地図)
この案は2005年10月29日『日米安全保障協議委員会』により日米で合意されたものだったのですが、この案については政府と辺野古地元で十分に協議がされていなく、また、陸上部分に基地が近く、なおかつ滑走路の延長線上に住宅や学校が近在していて住宅地の上空を航空機が飛ぶことになり、当時の名護市長(岸本建男)は「論外」と受け入れませんでした。
現行計画のV字型の滑走路に決定(名護市長などが合意)
そして2006年4月7日、住宅地の上空を回避するV字型の滑走路に政府と当時の名護市長(島袋吉和氏)、宜野座村長の間で合意されました。(普天間飛行場代替施設の建設に係る基本合意書)
※現行計画のV字型の滑走路
防衛省・自衛隊:普天間飛行場代替施設の建設に係る基本合意書
この合意が決まった時には名護市長の他に名護市に隣接する宜野湾村長、東村長、恩納村長、金武町長も来ていたようで、同じく合意が得られることになりました。(防衛庁長官 額賀長官の記者会見[2006年4月7日 (22時34分~22時52分)])
そして、2006年5月11日には沖縄県知事(稲嶺恵一)と『在沖米軍再編に係る基本確認書』が取り交わされました。
当時の稲嶺県知事はV事案に完全に合意したわけではないようですが、名護市が同意して北部の首長などが支持していたことから、受け入れた形になりました。
「同意はできないが、国との全面対立も避ける必要があった。日米でV字案に合意した以上、全面的にノーとも言えない。県はキャンプ・シュワブの陸上部分で暫定ヘリポートを建設することは認めるとも主張していた。(V字案と暫定ヘリポート案を)継続して協議しようというのが基本確認書だったが、協議は進まず、半年後に(知事を)勇退した。名護市がV字案に同意して北部の他の首長が支持し、経済界にも賛成する声があった。四面楚歌(そか)で明確に反対もできなかった」
産経ニュース:【普天間返還合意20年】稲嶺恵一・元沖縄県知事「基本確認書は『玉虫色』に」 地元と県全体で食い違い
--同意できなかったのは軍民共用と使用期限が白紙化されたためか
「知事選の公約で軍民共用と使用期限を掲げて当選した。県民に了解を取った範囲でしか動けず、(白紙化されたことに)不満もあり、同意はできなかった」
当時の名護市長・島袋吉和氏による「V字案」が決まった時の話
V字型の滑走路に決まった時のことを、当時の名護市長の島袋吉和氏が『【沖縄の声】島袋元名護市長の「決断」~辺野古V字型滑走路建設の経緯~[桜H20/6/22]』の動画で詳しく話されていました。
この動画は辺野古の基地について関心がある人は必見だと思います。
V字型の滑走路に決まった当日のことを箇条書きで書くと
・話し合い当日、政府の出してきたX案は住宅の上空を飛ぶことになるので、受け入れられず拒否して帰ろうとした
・しかし、政府から止められて2時間待機
・2時間後、政府からV字案が提案される
・島袋吉和市長は「航空機が町の上空を飛ばない」という条件があれば地元の人からは市長に任すとお墨付きをもらっていた
・島袋吉和市長は政府側の人間に、その場でV字案の滑走路に飛行経路の実線を引かせた
・政府側は島袋吉和市長だけに説明しようと別部屋に呼んだが、島袋吉和市長はみんなの前で確認をさせた
8:26~ 上記発言
また、島袋元市長はこうも話されていました。
◯島袋吉和
「従来はマスコミの皆さんもそうですが、一方的に政府に押し負けたとやられたとばかり言っているんですがね、そういうことじゃなくてですね、地元とそっちゅう合議してですね、三区の区長さんとか、地元の有識者の皆さんとか、合議してこれでいけるという所まできて飛んで行っているわけですよ。ただただ政府に一方的に押しなさいと印鑑を押したようなものじゃないですね。しっかりとこう三区の区長さん、有識者の皆さんの後押しがあってですね自信をもってやられたわけですよ。」14:35~ 上記発言
また、北部12市町村(名護市、国頭村、大宜味村、東村、今帰仁村、本部町、恩納村、宜野座村、金武町、伊江村、伊平屋村、伊是名村)の村長達も後押ししてくれていたことを話しています。
◯島袋吉和
「後押しはですね、北部12市町村の村町さん達も応援してくれたんです。一緒に防衛省に行ったりですね、何回もやっておりましたから。だからこの後ろ盾があってですね、他の地域の皆さんは(振興策?(聞き取れず))が欲しいと思いながらですね、北部の振興発展のためには名護が一生懸命頑張ってくれという後押しがありましたですね。それで自信持ってみんなと一緒にできたわけです。」15:51~ 上記発言
この話を聞いてみると、政府が一方的に決めたのではなく、名護市長を含めた地元の人たちが何度も話し合いながら合意されたことがわかります。
(ちなみに、このV字案でかたまったかと思った矢先、2009年7月に鳩山元首相の「最低でも県外」発言が出てきて、県外移設を求める声が沸き上がります)
「辺野古の基地にオスプレイが100機配備される」ことは決まっていない
新聞やネットを見ていると、「辺野古の基地にはオスプレイが100機配備される」という情報をよく見る気がします。
玉城デニー知事も『沖縄県知事選立候補予定候補者討論会』で「オスプレイが100機配備されることは明らか」という旨の発言をしていました。
◯玉城デニー知事
「辺野古の新基地建設については普天間にない弾薬搭載エリアであるとか、強襲揚陸艦が接岸できる護岸であるとか、明らかに機能強化であることは間違いありません。しかも一本の滑走路は二本に増え、オスプレイを将来100機そこに配備するということは元防衛大臣の著書の中でも明らかなんですね。」8:49~ 上記発言
この情報というのは、2010年に出版された元防衛大臣・森本敏氏の著書『普天間の謎 基地返還問題迷走15年の総て』の下記の文章を引用されていると思われます。
「海兵隊は、CH36、CH43(既に生産を中止)の後継機としてオスプレイを三六〇機装備することになっており、海軍(四八機)および空軍(五〇機)を含め、その一部が、今後、沖縄に配備されることになるであろう。配備時期は未定であるが、恐らく、二〇一二年までに最初の航空機が沖縄に展開してくる可能性がある。普天間基地の代替施設には、有事の事態を想定すれば一〇〇機程度のオスプレイを収容できる面積がなければならず、滑走路の長さだけで代替施設を決めるわけにはいかないのである」
引用:著者 森本敏「普天間の謎 基地返還問題迷走15年の総て」
著書には「100機程度のオスプレイを収容できる面積」というように記載されていますが、「辺野古に100機のオスプレイが配備される」とは記載されていません。
なので「オスプレイ100機が配備される」ということは確約されたわけではなく、正確な情報でもないことがわかります。
元防衛大臣・森本敏氏「現時点(18年10月)で辺野古施設に新たな展開が予定されているオスプレイはない」
NPO法人ファクトチェック・イニシアティブにより掲載された2018年10月の記事『[沖縄知事選] 西氏の評論への応答を掲載しました』(現在はページ削除済)では「普天間の謎 基地返還問題迷走15年の総て」の著者である元防衛大臣・森本敏氏に「辺野古にオスプレイが100機配備される」という件について質問をしていて、森本敏氏の回答が以下のように記載されています。
質問①辺野古の基地には有事にオスプレイ100機の収容が可能か
ファクトチェック・イニシアティブ:[沖縄知事選] 西氏の評論への応答を掲載しました
森本敏氏の回答
辺野古施設にはオスプレイ以外の各種のヘリ等が展開できるようになっており、それを全てオスプレイにした場合、最大何機収容できるかはわかりません。
有事の際に、他からどのような種類の航空機・ヘリなどが、どれくらい展開してくるかは、事態に応じた米軍の計画によるものですから、全く分かりませんが、事態の状況変化によっては多数の航空機が展開してくることも想定しているものと推察します。
辺野古施設の滑走路は戦闘機などが離着陸できる十分な長さがないので、いずれにしてもオスプレイや各種のヘリ等になると思います。
質問②米軍の計画では、平時は何機配備されることになっているのか
森本敏氏の回答
辺野古代替施設が完成したあと、現在、普天間飛行場に配備されているオスプレイ(24機)ならびに、CH43、AH-1、UH-1ヘリ等が展開してくることが予想されます。現時点で、それ以外から辺野古施設に新たな展開が予定されているオスプレイはないと承知しています。
以上により、著書『普天間の謎』でもそう述べてはいなかったように、森本氏は有事であれ平時であれ「辺野古にオスプレイ100機が配備される」というような情報や認識をもっていないことが、改めて確認されたといえる。
つまり、玉城デニー知事が引用していた本の著者でさえ、辺野古に100機のオスプレイが配備される認識を持っていないことがわかります。
具志堅議員(沖縄自民党)「防衛省の判断では辺野古の代替施設にオスプレイが100機配備されることは不可能」
このことは2018年12月6日の沖縄県議会で具志堅透県議員(沖縄自民党)などから追及され、具志堅議員は防衛省に確認をして「100機のオスプレイを配備することは不可能」という判断だったことを発言しています。
○具志堅 透
それでは、知事の政治姿勢について伺います。
1点目、オスプレイ100機配備されることになる発言なんですが、午前中の議論を聞いていますと森本元防衛大臣の著書に書いてあるというふうな、それを引用したんだという答弁がございました。これは非常に重要な国の国防あるいは安全保障に関する問題です。この事実確認、これが事実かどうかという、誰がしゃべろうが誰が書こうがいいんですよ。事実確認をとって、裏をとった上での発言なのかということを伺いたいと思います。
知事が発言しているんだよ、知事が答えないで……。当時あなた知事でもないんだよ今、あの当時は。
○知事(玉城デニー)
普天間代替施設に将来オスプレイが100機配備されるということについては、先般先ほど答弁をしたとおりでございます。1本の滑走路は2本にふえ、オスプレイは将来100機そこに配備することは元防衛大臣の著書でも明らかであると発言をさせていただきましたが、それは森本元防衛大臣が著書において記述をされたそのことの引用であります。
(中略)
○具志堅 透
それを受けて私は防衛省に確認をいたしました。防衛省の判断は、辺野古に建設される代替施設に100機のオスプレイを配備することは不可能だと、あり得ないという話なんですよ。そういうふうに私は受けていますので、知事として今後この発言をする上でしっかりと関係各省庁に事実確認をするという約束をとれますか。
○知事(玉城デニー)
繰り返す答弁かもしれませんが、私は著書の記述を引用させていただいたということであります。
引用:平成30年12月6日 第8回 沖縄県議会(定例会)
これらのことから「辺野古の基地にオスプレイが100機配備される」ということは事実ではないことがわかると思います。
最後に
「移設によって基地機能は強化されるのか?」というに点については、正直僕には基地や軍に対しての専門的な知識がないので明言できませんが、これらの資料を見た限りでは、玉城デニー知事を含めた辺野古移設反対側の主張する基地強化となる点については疑問を感じました。
僕もこの記事を書くまでは、移設によって基地機能が強化されるような印象を少し持っていたのですが、それは正確でないことがわかりました。
おそらく僕のように勘違いしている方は多数いると思うので、この記事を少しでも参考にしてもらえたらなと思います。
コメント
私は沖縄県民です、海兵隊が沖縄に駐留する必要は無いと思っています。
「強襲揚陸艦が接岸可能な護岸ができるから基地強化になる」についてですが、内容を読むと結局強襲揚陸艦は、接岸可能だということですよね。
米軍は、運用の変更をかってにやるし、日本政府は米軍のいいなりなので拒否できませんよね、結局できること=必要ならやるということになりますよね。
また、弾薬搭は辺野古弾薬庫ってのが、キャンプシュワブ内にあるらしいですよ、新設する必要は、無いんじゃない。(なんか昔化学兵器を置いてあったらしいですよ)
もうひとつ、滑走路の長さ1800mって本当に必要なんですかね、(橋本首相のときは、ヘリパットの建設だったんじゃないかな?それから1200mになって)、米軍の海兵隊は将来、F-35の配備を予定しているようですよ、F-35も着陸可能なアレスティング・ギアという施設を辺野古基地は備えているようですよ。
一部の基地機能強化が可能であることは、たしかですよね。