現在、普天間飛行場の代替施設として、辺野古に滑走路の建設が進行しています。
しかし、建設予定地の地盤が軟弱地盤ということが明らかになり、テレビや新聞などでよく話題に上がっています。
軟弱地盤の影響で「辺野古に滑走路を建設するのは困難ではないか」という話も出ているので、今回その事実を確かめるためにも、辺野古の軟弱地盤問題について色々調べてまとめてみました。
僕は地盤や地質に詳しい専門家というわけではないのですが、政府の公開している資料などを見ながら、軟弱地盤の問題点や政府側の主張などを時系列でまとめてみたので、辺野古の軟弱地盤について調べている人はぜひ参考にしていください。
- 現時点(2019年6月)で政府側は「地盤改良工事は必要であるが安定性を確保することは可能」という判断
- 2018年3月に沖縄防衛局が開示した資料により軟弱地盤が判明
- 「C-1~C-3護岸」で当初想定されていないような地形・地質が確認された
- 「C-1の護岸」の「B-26」「B-28」地点はN値が0(ゼロ)
- 報告書の最後の結論部分「構造物の安定、地盤の圧密沈下、地盤の液状化の詳細検討を行うことが必須と考える」
- 政府側「追加のボーリング調査の結果も踏まえて地盤の強度を判断するので、この結果だけでは正しく判断できない」
- 2018年10月の審査請求書の中で「サンドコンパクションパイル工法及びサンドドレーン工法を用いて地盤改良工事を行う」
- 2019年1月の国会答弁で安倍首相「地盤改良が必要であるが十分に安定的な施工が可能」
- 2019年1月の防衛省が国土交通省報告書に提出した報告書「地盤に係る設計・施工の検討結果」
- 岩屋防衛大臣「70メートルまでの施工で安定性を確保することが可能」
- 政府側は地盤沈下の可能性があることを国会で指摘される
- 政府側「かさ上げなどの対策を講じることにより、安全性に問題なく施設を供用させることができる」
- 沖縄防衛局の試算としては地盤改良の工期は海上工事に約3年8か月、陸上工事に約1年
- 埋め立て工事費用の2兆5500億円は移設に反対している沖縄県側が試算したもの
- まとめ
現時点(2019年6月)で政府側は「地盤改良工事は必要であるが安定性を確保することは可能」という判断
最初に書いてしまおうと思うのですが、辺野古の軟弱地盤について色々と指摘があるなか、現時点(2019年6月)で政府側は「地盤改良工事が必要であるが、一般的な工法によって安定性を確保することは可能」という判断をしていて、これがほぼ最終的な判断となっています。
これは、追加のボーリング調査の結果にもとづいて、2019年1月にまとめられた「地盤に係る設計・施工の検討結果報告書」に記載されてあり、よほどのことがない限りこの判断は今後も変わることはないと思われます。
また、2019年1月30日の国会では安倍首相も同じ発言をしていました。
○内閣総理大臣(安倍晋三君)
2019年1月30日 第198回国会 本会議 第2号
今般、沖縄防衛局において、地盤の検討に必要なボーリング調査の結果を踏まえ、米軍キャンプ・シュワブの北側海域における護岸等の構造物の安定性等について検討した結果、地盤改良工事が必要であるものの、一般的で施工実績が豊富な工法により地盤改良工事を行うことにより、護岸や埋立て等の工事を所要の安定性を確保して行うことが可能であることが確認されたと聞いております。
現時点で政府はこのような判断をしていますが、では、辺野古の軟弱地盤問題について「何が具体的に問題なのか」ということなどを、地質調査の報告書や与野党の主張などから時系列で下記に書いていこうと思います。
2018年3月に沖縄防衛局が開示した資料により軟弱地盤が判明
辺野古の軟弱地盤問題が話題に上がるようになったのは、2018年3月に防衛省沖縄防衛局が開示した
・「シュワブ(H25)地質調査(その2)」
・「シュワブ(H26)地質調査」
これらの地質調査の報告書によって軟弱地盤の存在が明らかになったことからです。
※沖縄防衛局とは
少しややこしいのですが、この沖縄防衛局は防衛省の地方組織なので政府側の立場です。つまり、辺野古の埋め立てに反対している沖縄県政とは真逆の立場で、辺野古の埋め立てを行っている組織になります。
(※報告書は沖縄防衛局からは一般公表されていないので、日本共産党の井上哲士議員、国民民主党の森ゆうこ議員がネット上で公開している報告書の一部分を下記では引用しています。)
2016年3月には沖縄防衛局に提出されていた地質調査の報告書が18年3月に開示
これらの報告書は、沖縄防衛局から委託を受けた民間業者が、2014~16年にかけての埋め立て区域の地質調査を行った報告書です。
報告書は2016年3月には民間業者から沖縄防衛局へ提出されていましたが、沖縄平和市民連絡会メンバーで元土木技術者の北上田毅氏らの開示請求によって、2018年3月にこれらの報告書が開示されることになりました。
沖縄防衛局は2017年2月からこれらの報告書を開示するように求められていましたが、約1年後に開示されることになりました。
情報開示請求を受けてから政府が開示するまで1年もかかった理由
沖縄防衛局が公表するまでに1年かかったことに対して「政府側の不利な情報を公表したくないからでは?」という考えが頭によぎりますが、その理由について防衛省は「総ページが3000ページあり、不開示情報が含まれていないかといった精査や確認を行う必要があったから」という答弁でした。
○西田政府参考人
平成30年3月22日 第196回国会 安全保障委員会 第3号
お答え申し上げます。
御指摘の飛行場代替施設建設事業に係るボーリング調査報告書につきましては、委員から、平成二十九年二月に、建設工事に係る既に完了したボーリング調査業務の結果報告書について資料を提出するよう御要求があったものでございます。
防衛省といたしましては、提出する文書につきましての探索を行ったところ、総ページ数が約三千ページと著しく大量でございまして、また、当該文書を提出するに当たりましては、全体として不開示情報が含まれていないかといった精査、確認を行う必要がありましたことから、作業に一定の期間を要したため、最終的に、この三月に提出をさせていただいたところでございます。
また、「防衛省に来る開示の要求の資料の数というのは大変膨大なもの」という答弁も行っていました。
○小野寺国務大臣
平成30年3月22日 第196回国会 安全保障委員会 第3号
委員御指摘の資料の提出につきましては、防衛省として、本件資料の要求の対応に当たりましては、情報公開法第五条各号に掲げる不開示情報に該当するか否かも参考にしつつ、適切に対応したものと考えております。
なお、私も、文書管理の中で、防衛省の担当者から随時報告を受け、そして、しっかり開示に努力をするようにというふうに指示を出しておりますが、防衛省に来る開示の要求の資料の数というのはもう大変膨大なものになっております。職員は、本当に大変な残業をしながら必死に対応している姿というのを私も見ております。
今回も、できるだけ職員の負担を軽減するように人員の増強には努めてまいりますが、現場は大変だということ、それでも、私ども丁寧に適切に対応する努力を今後とも継続させていただきたいと思っております。
3000ページの資料が1年間で開示されるというのが、どのぐらいのスピード感なのかいまいち把握できていませんが、政府側としてはこのような答弁でした。
「C-1~C-3護岸」で当初想定されていないような地形・地質が確認された
開示された沖縄防衛局の資料
・「シュワブ(H25)地質調査(その2)」
・「シュワブ(H26)地質調査」
には下記のような文章が記載されていました。
・「C-1~C-3護岸計画箇所付近において、当初想定されていないような特徴的な地形・地質が確認された。」
(ページ下部の黄色の吹き出しの部分)
・「谷地形が形成され、非常に緩い・軟らかい谷埋堆積物(砂質土・粘性土)が層厚40mで堆積している」
日本共産党 井上哲士:2018年11月22日 外交防衛委員会提出資料
上記の報告書の図では少しわかりにくいと思うのですが、当初想定されていないような特徴的な地形・地質が確認された「C-1~C-3の護岸」というのは埋め立て区域の東側(大浦湾側)に建設する護岸のことであり、また、「谷地形が形成され、非常に緩い・軟らかい谷埋堆積物(砂質土・粘性土)が層厚40mで堆積している」の部分は「C-1護岸」の「B-26」「B-28」地点にあたります。
下記の図参照↓
・「当初想定されていないような特徴的な地形・地質が確認された」
↓
C-1~C-3の護岸(赤枠)
・「谷地形が形成され、非常に緩い・軟らかい谷埋堆積物(砂質土・粘性土)が層厚40mで堆積している」
↓
B-26、B-28地点(黒丸)
(※ピンク色の線に沿って護岸は設置され、その内側のグレーの部分が埋め立てられる場所)
沖縄防衛局:飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書
「C-1の護岸」の「B-26」「B-28」地点はN値が0(ゼロ)
また、「シュワブ(H25)地質調査(その2)」には地点ごとのボーリング調査の結果が表で記載されていて、「B-26」と「B-28」地点には、深度40m付近までの間に「N値」の数値が「0(ゼロ)」の場所が複数確認されました。
※シュワブ(H25)地質調査(その2)
※小さくて見えにくいのでページ右側の「B-26」と「B-28」の部分を拡大(赤枠に注目)↓
日本共産党 井上哲士:2018年11月22日 外交防衛委員会提出資料
国民民主党 森ゆうこ:資料1_11
拡大された表の「深度」を見ながら横の「換算N値」を見ていくと、「0(ゼロ)」の数値が多く並んでいるのがわかると思います。
「N値0(ゼロ)」とは
新聞やテレビの報道でも「N値がゼロ」という言葉をよく見かけると思いますが、このN値というのは地盤の強度を表した数値のことであり、「ハンマーを使って杭を30cm打ち込むのに必要な回数」がそのままN値の数値になります。
国民民主党 森ゆうこ:資料1_11
例えば・・・
・杭が30cm下まで到達するのにハンマーを1回打ち込んだ場合・・・N値は「1」
・杭が30cm下まで到達するのにハンマーを5回打ち込んだ場合・・・N値は「5」
という数値となり、つまりN値の数値が大きいほど地盤が固いということになります。
今回の「N値が0(ゼロ)の地盤」というのは「ハンマーを使わずとも杭を設置しただけで30cm貫入する地盤」という意味になり、それゆえ「軟弱地盤」や「マヨネーズ地盤」というように呼ばれています。
報告書の最後の結論部分「構造物の安定、地盤の圧密沈下、地盤の液状化の詳細検討を行うことが必須と考える」
これらのことから、報告書の最後の結論部分には下記のような文章が記載されていました。
「以上のことから、特に当該地においては、構造物の安定、地盤の圧密沈下、地盤の液状化の詳細検討を行うことが必須と考える」
日本共産党 井上哲士:2018年11月22日 外交防衛委員会提出資料
これらの報告書に記載されていたことに対し、防衛省や沖縄防衛局は国会や合同ヒアリングで野党などから追及されることになります。
政府側「追加のボーリング調査の結果も踏まえて地盤の強度を判断するので、この結果だけでは正しく判断できない」
このN値ゼロの地盤の報告書の結果について、2018年3月22の国会の答弁で西田政府参考人は
・「室内試験を含んだ現在実施中のボーリング調査の結果も踏まえて判断する」
・「御指摘のボーリング調査の結果だけでは地盤の強度等を正しく判断できる段階にはない」
という旨の答弁をしました。
○西田政府参考人
平成30年3月22日 第196回国会 安全保障委員会 第3号
お答えを申し上げます。
地盤の強度等につきましては、御指摘のN値といった結果だけではなく、室内試験を含みます現在実施中のボーリング調査の結果も踏まえまして、総合的に地盤の強度等を判断をすることといたしてございます。
したがいまして、御指摘のボーリング調査の結果だけでは地盤の強度等を正しく判断できる段階にはないと考えてございます。
また、約1年後の国会の答弁で岩屋防衛大臣は
・「この報告書のボーリング調査は24ヶ所の非常に限られた地点での調査だった」
・「新たに追加の52ヵ所のボーリング調査を行うことにした」
ということも答弁しています。
○国務大臣(岩屋毅君)
平成31年2月7日 第198回国会 予算委員会 第2号
確かにその軟弱地盤の、何といいますか、可能性はあるということだったと思いますけれども、そのときの、そのときのボーリング調査というのは二十四か所でございました。非常に限られた地点での調査でございましたので、新たにその倍以上の五十二か所のボーリング調査を行うこととし、その結果、まだ中間報告で一部室内検査が残っておりますけれども、それを昨年の十二月に我々は中間報告の結果を得たということでございます。
つまり、
「追加のボーリング調査をしているので、強度についてまだ判断できる段階ではない」
というのがこの時点の政府側の主張です。
この時はまだ、強度については判断されていないので、地盤改良を行う必要性があるかどうかはもちろんまだ明らかになっていません。
2018年10月の審査請求書の中で「サンドコンパクションパイル工法及びサンドドレーン工法を用いて地盤改良工事を行う」
地盤改良を行うことが明らかになったのは、沖縄防衛局が2018年10日17日に国土交通省に提出した審査請求書に記載されていたことからでした。
※この審査請求書とは
2013年に当時の仲井眞県知事は、政府が提出していた埋め立て申請を一度承認しています。
しかし、今の沖縄県はこの埋め立て承認の「撤回」を行っています。
この埋め立て承認の「撤回」が不服であると防衛省沖縄防衛局が国土交通省に提出したのが「審査請求書」になります。
審査請求書の中身の文章については、沖縄防衛局から一般公表されていませんが、沖縄県が国土交通省に提出した審査請求に対しての「弁明書」は、沖縄県のホームページに全文公表されています。
沖縄県はその弁明書の中で、沖縄防衛局が提出した審査請求書の文章を引用して反論していて、審査請求書の中には「一般的で施工実績が豊富なサンドコンパクションパイル工法及びサンドドレーン工法を用いて地盤改良工事を行うことにより~」という文章が記載されていたことが明らかになりました。
沖縄県HP:H201119 弁明書別紙2(最終版)
このことから、沖縄防衛局がこの時点で地盤改良工事を行う方針であることが明らかになり、また「一般的で施工実績が豊富な工法で、護岸や埋め立て等の工事を所要の安定性を確保して行うことが可能」であることも沖縄防衛局は主張しています。
2019年1月の国会答弁で安倍首相「地盤改良が必要であるが十分に安定的な施工が可能」
そして、政府側は前回の24ヵ所と、追加で調査された52ヵ所のボーリング調査の結果を2018年12月に受け、2019年1月30日の国会で安倍首相は
・「地盤改良工事が必要である」
・「地盤改良工事によって護岸や埋め立て等の工事を所要の安定性を確保することが可能である」
ということを答弁しています。
○内閣総理大臣(安倍晋三君)
平成31年1月30日 第198回国会 本会議 第2号
今般、沖縄防衛局において、地盤の検討に必要なボーリング調査の結果を踏まえ、米軍キャンプ・シュワブの北側海域における護岸等の構造物の安定性等について検討した結果、地盤改良工事が必要であるものの、一般的で施工実績が豊富な工法により地盤改良工事を行うことにより、護岸や埋立て等の工事を所要の安定性を確保して行うことが可能であることが確認されたと聞いております。
現時点で今後の工期や費用について確たることを申し上げることは困難ですが、今後、沖縄防衛局において地盤改良に係る具体的な設計等の検討を十分に行うものと承知しています。
今まで政府側は地盤改良の必要性について「まだ判断できる段階ではない」という主張だったのですが、この答弁で地盤改良が必要であることが公に公表されることになりました。
地盤改良を行うには設計変更をする必要があり、沖縄県からの承認が必要
また、1月31日の国会の答弁で安倍首相は「沖縄県に変更承認申請を行うため、必要な検討を行っていく」ということを発言しています。
○内閣総理大臣(安倍晋三君)
平成31年1月31日 第198回国会 本会議 第3号
地盤改良工事の追加に伴い、沖縄県に対して変更承認申請を行う必要があるため、まずは沖縄防衛局において必要な検討を行っていくものと承知しております。
この発言にあるように、沖縄防衛局が地盤改良をするには設計変更をする必要があり、そのためには県からの承認が必要になります。
玉城デニー知事が地盤改良のための設計変更を承認する可能性はきわめて低い
新聞やニュースでも報道されているように、今の玉城デニー沖縄県政は埋め立てに真っ向から反対しています。
また、計画変更の承認には否定的であることは2018年11月14日の集中協議で謝花副知事が表明しています。
会談で謝花副知事は大浦湾側で存在が指摘される軟弱地盤について「今の県政は(埋め立て工法の設計について)変更を承認することは決して見通せない」と述べ、変更承認に否定的な見方を示した。現時点で歩み寄る接点はなく「両者の意見は平行線という形になるかもしれない」とも語った。
2018.11.15 琉球新報:県、軟弱地盤で譲らず 集中協議 来月以降も継続
一方で、2019年1月に玉城デニー知事は設計変更を申請された場合の対応について、「現時点でコメントするのは差し控える」ということを記者に話しています。
国が地盤改良のため新建設計画の設計変更を県に申請した場合の対応については「現時点でコメントするのは差し控えるが、撤回に基づいて協議をすることが国の責任だ」と述べるにとどめた。
2019.1.31 沖縄タイムス:玉城デニー知事、「即刻工事を中止せよ」 国が辺野古の軟弱地盤を認める
しかし、玉城デニー知事は「辺野古の基地建設阻止」を公約にかかげて県知事に当選した経緯もあるので、設計変更の承認にはほぼ間違いなく否定的な考えだと思われます。
政府は申請についての詳細はまだ公表していないですが、おそらく今の沖縄県政は設計変更に承認はせず、工事は長引くことになると思われます。
2019年1月の防衛省が国土交通省報告書に提出した報告書「地盤に係る設計・施工の検討結果」
追加のボーリング調査も含めた報告書「地盤に係る設計・施工の検討結果」は2019年1月にまとめられ、沖縄防衛局は沖縄県の埋め立て承認の「撤回」に対する審査請求のために、国土交通省に提出しました。
2019.2.21 東京新聞:<税を追う 辺野古埋め立て強行>(上)軟弱地盤伏せ土砂投入 住民憤り「国、いつも問題後出し」
この報告書は前回の報告書同様、審査請求に関わることなので、沖縄防衛局からは一般公表されていませんが、沖縄県はこの報告書に対しての意見書を沖縄県のホームページに全文公表しています。
この意見書は沖縄防衛局の報告書を引用しながら反論している部分もあり、その意見書には
・地盤改良工事によって杭を7万7千本打つ
・粘性土の地盤は水深90メートルなのに、日本の作業船の施工深度は70メートルまでしか届かない(=水深70~90メートルは地盤改良ができない)
ということが記載されていました。
沖縄県HP:H201119 弁明書別紙2(最終版)
日本作業船協会のホームページを見ると、たしかに「地盤改良は水面下70mまで」というのは事実のようです。
一般社団法人 日本作業船協会HP:サンドコンパクション船
岩屋防衛大臣「70メートルまでの施工で安定性を確保することが可能」
このことについて、2019年2月28日の国会で赤嶺議員が質疑を行い、岩屋防衛大臣はその答弁で、杭を7万7千本打つことが事実であることと同時に
・「深度は最大のところで90メートルだが、70メートルより下は非常に硬い粘土層になっており、70メートルまでの施工で安定性を確保することが可能」
・「全体の約7割は水面下40メートル未満の地盤改良工事によって安定性が確保できる」
・「最大深度70メートルまで施工するのは全体の数パーセントに留まる」
ということを答弁しました。
○国務大臣(岩屋毅君)
平成31年2月28日 第198回国会 予算委員会 第14号
キャンプ・シュワブの北側海域における護岸等の安定性等に係る検討内容について申し上げますと、地盤の検討に必要なボーリング調査の結果を踏まえまして、キャンプ・シュワブの北側海域における護岸等の構造物の安定性等について技術的に検討いたしました結果、サンド・コンパクション・パイル及びサンドドレーンを約七万七千本、最大施工深度は水面下約七十メートル、改良面積は約七十三万平方メートルで施工することで安定性を確保することが可能であるというふうに確認をいたしております。
また、七十メートルの施工ができる船は三隻ございますが、その七十メーターまで施工するものは全体のうち数%程度でございまして、全体の約七割は水面下四十メートル未満の地盤改良工事によって所要の安定性が確保できることが確認をされております。
○赤嶺政賢君
大変驚きましたね。つまり、辺野古の海の深さ、深度は九十メートルあるというのはお認めになるわけですね。
○国務大臣(岩屋毅君)
その深度は最大のところで九十メートルあるわけでございますが、先ほど申し上げましたように、構造物等の安定性を確保するために必要な深度は七十メートルで、その下にかなりかたい粘土層があるということが、地盤工学会が発行している出版物に記載の分類によりますと、非常にかたい粘土層に分類される強度を有しているということが確認をされておりますので、最大でも七十メートルのサンド・コンパクション・パイル工法等で施工が可能であり、安定性が確保できる、しかも、最大深度七十メートルまで施工するのは全体の数%にとどまるというふうに確認をしているところでございます。
また、3月12日の国会では防衛省の辰己昌良総括官が、辺野古で行う同じ工法で過去に杭を打った他所の本数の例をあげています。
○政府参考人(辰己昌良君)
平成31年3月12日 第198回国会 内閣委員会 第3号
(前略)
このサンド・コンパクション・パイル、それからサンドドレーンという工法につきましては、これまでも他事業において、東京国際空港の事業では約二十五万本、関西国際空港の第一期事業では約百三万本、第二期事業では約百二十万本の実績がございまして、これまでも数多くの工事が行われております。一般的で施工実績が豊富な工法であると考えているところでございます。
※辺野古で行う同じ工法の他所との杭の打つ本数の比較
辺野古・・・約7万7千本
東京国際空港・・・約25万本
関西国際空港・・・第1期事業約103万本、第2期事業約120万本
羽田空港D滑走路・・・約25万本
地盤改良を行う深度の違いはあるとは思いますが、政府側としては辺野古と同じ工法で過去に以上に杭を打っていた実績があることを主張しています。
政府側は地盤沈下の可能性があることを国会で指摘される
2019年3月の国会では、辺野古で地盤改良を行っても、将来的に地盤沈下の可能性があることを政府側は指摘されています。
○伊波洋一君
平成31年3月12日 第198回国会 外交防衛委員会 第3号
(中略)
関西空港では、埋立開始からこれまで何メートル、開港時から何メートルの地盤沈下が生じていますか。また、羽田空港D滑走路ではどうですか。
○政府参考人(岩崎俊一君)
お答え申し上げます。
関西国際空港の一期島では、昭和六十二年の埋立開始から平成二十九年度までの沈下量は約十三メートルです。なお、開港直前からの沈下量は約四メートルでございます。また、羽田空港D滑走路におきましては、平成十九年の埋立開始から平成二十九年度までの沈下量は約七メートルです。なお、供用直前からの沈下量は最大約四十八センチメートルです。
国交省の岩崎俊一航空局次長が答弁しているように、辺野古で行う予定の同じ工法で行われた関西国際空港や、羽田空港の滑走路でも地盤沈下は起こっているのは事実のようです。
※地盤の沈下量
関西国際空港・・・1987~2017年度の間で沈下量は約13メートル
羽田空港D滑走路・・・2007~2017年度の間で沈下量は約7メートル
政府側「かさ上げなどの対策を講じることにより、安全性に問題なく施設を供用させることができる」
しかし、地盤沈下について政府側は「対策を講じることで、安全性に問題なく供用させることができる」という答弁でした。
○伊波洋一君
平成31年3月12日 第198回国会 外交防衛委員会 第3号
防衛大臣に伺います。
昨年までに大浦湾の圧密沈下について説明を受けたことがあるでしょうか。そしてまた、今年になって同様な説明を受けたことがあるでしょうか。お答えください。
○国務大臣(岩屋毅君)
先ほども国交省からも説明がありましたように、この種の海上埋立工事においては、施設供用後に、まあ長い年月を経て沈下が起こることは一般的だというふうに考えております。
したがって、この地盤沈下の問題についても、その沈下量を見込んだ上であらかじめ考慮した高さを設定する等の適切な対応が可能であって、施設供用後の沈下量を抑える工法の採用、圧密促進工事というらしいですけれども、維持管理段階でのかさ上げなどの対策を講じることにより、安全性に問題なく施設を供用させることができるという検討結果の報告は受けております。
政府側は「海上埋立工事においては、施設供用後に、長い年月を経て沈下が起こることは一般的」であることも主張しています。
沖縄防衛局の試算としては地盤改良の工期は海上工事に約3年8か月、陸上工事に約1年
政府側は2019年3月15日に、1月にまとめられた辺野古の地質調査の報告書「地盤に係る設計・施工の検討結果 報告書」を公表しました。
あくまで試算ではあるということですが、この報告書の中には地盤改良の工期について
海上工事:約3年8か月
陸上工事:約1年
と、沖縄防衛局が見積もっていたことが記載されていました。
○副大臣(原田憲治君)
平成31年3月19日 第198回国会 沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第3号
今般国会に提出した報告書における地盤改良工事に、辺野古の要する期間については、あくまで現時点の試算として、埋立工事を含まない地盤改良に係る工事について、海上工事は約三年八か月、陸上工事は約一年と見積もっております。
他方、地盤改良工事は埋立工事を含む他の工事と並行して実施することが可能である上、今後、より合理的な設計、施工を検討することとしておりますことから、この見積りは確定的なものではなくて、必ずしもこの見積期間が工事期間にそのまま加わるものではございません。
いずれにせよ、報告書に記載した工期はあくまで試算でありまして、今後、より合理的な設計、施工を検討することといたしております。
ただ、政府側はこの工期について「確定的なものではなく、必ずしもこの見積期間が工事期間にそのまま加わるものではない」ということを念頭に置いています。
また、「約3年8か月」と「約1年」については、合計で「約4年8か月かかる」となるわけではなく、「作業を同時に行えば純粋に足されるわけではない」という答弁も政府側はしています。
○森ゆうこ
平成31年3月22日 第198回国会 予算委員会 第12号
じゃ、合計四年八か月なんじゃないですか。
○政府参考人(鈴木敦夫君)
それぞれの作業を同時に行えば、それらが純粋に足されるわけではございません。
そしてまた、この埋立工事、失礼しました、地盤改良工事だけでなく、その他の工事もございますので、そうしたものの組合せによりまして全体の工期というものが決まってくるというものでございます。
ただ、これらにつきましては、今後、必要な検討を行いまして、詳細な形で、どういう形で工事を行っていくのかということを検討していきたいというふうに考えてございます。
工期についてはまだ検討を重ねているようなので、今後発表されていくと思います。
埋め立て工事費用の2兆5500億円は移設に反対している沖縄県側が試算したもの
辺野古の埋め立て工事費用に2兆5500億円かかるという話をよく見かけると思いますが、この2兆5500億円というのは、いわゆる移設に反対している沖縄県政が試算したものです。
この試算は2018年11月に行われた集中協議の中で、沖縄県の謝花副知事が杉田官房副長官に示したものなのですが、この試算について、2018年12月6日の沖縄県議会で座波一県議員(自民党)により謝花喜一郎副知事へ質問がされていました。
◯座波 一
平成30年 12月6日第8回 沖縄県議会(定例会)
軟弱地盤の問題でその対応についてなんですが、この変更に対する、申請に対する答えが見通せないという否定的な、まだ申請も見ていないのに否定的に見通せないと言ったり、変更工事自体が勝手に試算して2兆円を超えるから無駄な国費を投入するというような、これはもう官製デマというような話じゃないかと思いますよ。これ本当に根拠があるのかと。法治国家としては、行政手続はしっかりと受けとめて、できるかできないかを答えるべきではないでしょうか。
◯副知事(謝花喜一郎)
(中略)
そういったことも含めて、今度はやはり今回の集中協議は胸襟を開いてやるということが前提でございましたので、あくまでも県の概算ですがということをお断りした上で、これは沖縄防衛局が出した政府が資金計画書で示した埋立工事費用、これ2405億4000万円とされているけれども、実際には本体工事でも計画されている22カ所の護岸のうちの6カ所の護岸が概成されて、1カ所の護岸が一部のみで着工されているにすぎないんだと。そういった中で既に1428億円使われていますと。これはもう数字でございます。その上でなおかつ着工済みの護岸工事費用の資金計画書、これに目を落とした場合には78億4000万円という数字になっておりますけれども、実際の支払い済み額これ928億円ということで12倍になっていますと。これ12倍ですが、これを単純計算、仮に5倍としたときに1兆円、10倍としたときは2兆円になりますよと。それに軟弱地盤で500億円の予算が追加されますとか、県外からの土砂の追加でさらに1000億円追加されます。合わせるともう2兆5500億円ですよということは副長官にも資料を渡しながら説明したわけでございます。
つまり、沖縄県側の主張する埋立工事費用が2兆5500億円となった根拠は
・辺野古の護岸22カ所のうち現在着手済みの護岸は7か所
・計画書では7か所分で費用が78億だったが、実際の払い込み額は928億円で約10倍近く差がある
・このことから埋立工事費用の2405億を10倍した
ということで、謝花副知事が「あくまで概算」ということを発言しているように、おおよその見積もりとして出しただけで正確なものではありません。
岩屋防衛大臣「(沖縄県の試算額に対して)そこまではかからない」
この沖縄県の試算に対して岩屋防衛大臣は「支出した930億円には環境調査や警備などの護岸工事以外の経費も含まれていて、そこまではかからない」という旨の答弁を国会でしています。
○岩屋国務大臣
平成31年2月20日 第198回国会 予算委員会 第10号
沖縄県の試算に反論するという気持ちはないんですけれども、その試算を拝見してみますと、着手済みの護岸工事に係る当初見込み額を約八十億円とし、その上で、その護岸の建設のみならず、環境調査や警備など、護岸工事以外の経費も含む今までの代替施設建設事業に係る支出済み総額を、約九百三十億円でございますが、この両者を比較して、当初の見込みよりも十倍以上かかっていますよねということから、当初の埋立工事の見込み額約二千四百億円を機械的に十倍して出された試算なのかなというふうに私ども受けとめております。
そこまではかからないというふうに考えております。
岩屋防衛大臣「まだ全体の経費については答えられる段階ではない」
以前、沖縄防衛局が資金計画書で示した辺野古の埋立工事費用は約2400億円でした。
○當間 盛夫
平成30年 12月10日第8回 沖縄県議会(定例会)
私の分では、当初試算というんですか、総工費の部分は3500億というような認識なんですけれども、その数字というのはどういうことなんですか。
(中略)
○知事公室長(池田竹州)
お答えします。
今の約2400億円というのは、資金計画書、埋立承認願書に添付されている書類による額です。今、議員御指摘の3500億円は、参議院の外交防衛委員会でその内訳としまして合計で少なくとも3500億円以上という国会の中での答弁かと思います。
しかし、地盤改良を行うことになったこともあり、岩屋防衛大臣は2019年3月の国会で「まだ全体の経費については答えられる段階ではない」という答弁をしています。
○国務大臣(岩屋毅君)
平成31年3月22日 第198回国会 外交防衛委員会 第5号
今般の調査の結果を踏まえて、地盤改良工事が追加されることになりました。したがって、設計の概要等の変更を行って、変更承認申請を沖縄県さんに対して行う必要があるというふうに考えております。そして、今、地盤改良に係る具体的な設計等の検討を行っているところでございます。
したがって、もちろん地盤改良工事の追加に伴ってそれに一定の期間を要するというふうに考えておりますけれども、全体の工期あるいは全体の経費につきましては、詳細な設計ができた段階で概要をお示しをすることができるというふうに考えているところでございまして、今日、ただいまの段階でまだ申し上げられる段階ではございません。
工費も工期と同じようにこれから発表されることになると思います。
まとめ
辺野古の軟弱地盤について政府の答弁などを中心に色々調べてみましたが、肝心な部分は
政府は現時点で「地盤改良工事が必要であるが、一般的な工法によって安定性を確保することは可能」という判断をしている
ということだと思います。
僕は地質の専門家ではないので、この政府側の言う「安定性を確保することは可能」ということが、本当に正確かどうかは断言できないですが、政府側は追加のボーリング調査を行い、専門家と検討してこのような判断をしているので、おそらく「安定性を確保することは可能」というはほぼ事実に近い判断ではないかと思っています。
さすがに「基地を作ることは不可能なのに基地を作る」という判断をすることは政府としてもデメリットが大きすぎると思っているので、辺野古に基地を建設することは可能ではないかなと思っています。
ただ、辺野古の移設先として完璧に適しているかといえば、地盤改良を行うことからもおそらくそうではないとは思います。
しかし、辺野古や辺野古周辺の人たちが何度も合議して滑走路の建設を合意した経緯があるので、現状で一番適しているのは辺野古なのではないかと少し思っています。
辺野古の工期や工費などはこれから発表されていくことになると思うので、随時この記事も更新していこうと思っています。
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